東京高等裁判所 昭和32年(う)672号 判決
被告人 西山鶴松
〔抄 録〕
検察官の控訴趣意の要旨は、原判決の刑の量定が著しく軽きに失して不当であるというにある。よつて、記録及び原裁判所で取り調べた証拠を精査し、かつ、当審における事実取調の結果をも総合して、これらに現われた本件の罪質、犯行の動機、態様、結果、危険の有無、被告人の一身上の諸事情並びに犯罪後の情況等諸般の情状について検討勘案するに、本件は、
一、犯行の動機が競輪で所持金一万六千円余を使い果して金銭に窮した結果、火災保険金を騙取しようとして放火を決意するに至つたものであること、
一、その手段方法が智能的、かつ計画的であること、
一、放火現場が、十世帯を収容する木造アパートであり、その周辺が、木造家屋の密集する住宅地帯であつて、火災につき公共危険度の高い場所であること、
一、当日の天候が、たい風十二号の余波を受け、風速十一米余の強風が吹き、強風注意報及び火災注意報発令中であるのに、特に、この天候に乗じて放火したものであること、
一、保険金詐欺の放火であつて、模倣性に富み、一般予防の見地からもゆるがせにできない犯罪であること、
等の諸点を総合考察するときは、その情状決して軽からざるものが存するのであつて、たとえ、早く発見されたため、焼燬の結果が軽きに止まつた上、その損害が補填されたこと、被告人が自首して改悛の情を示したこと、その他の弁護人所論の諸事情を被告人の利益に参酌しても、なお、被告人に対して刑の執行を猶予することは、適当でないと考えられるので、原判決の量刑は、結局軽きに失して妥当でないことに帰し、原判決は、この点において破棄を免れないから、検察官の論旨は理由がある。
(中西 山田 石井謹)